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その3は蔵見学の様子をお伝えします。分かりやすいように説明を入れていったら割と長くなってしまいました。お時間のある時に暇つぶしにどうぞ。
日本酒は皆さんご存知の通り、麹菌や酵母など、様々な微生物の働きによって造られています。なので雑菌を外から持ち込まないように、蔵に入る前にはちょっとした準備があります。
まずは靴を脱ぎ室内履きに。手洗いをして給食当番のような帽子をかぶります。これで衛生対策はバッチリ(^-^)v
蔵内はひんやりした空気と静けさが広がっていて、どこか厳かな雰囲気があります。更に通路の左右に身の丈以上のタンクが並んでいて、その雰囲気に圧倒されます。夜一人で来たらめっちゃ怖そうです。
さて、これから日本酒造りの工程別に、原料処理(洗米、浸漬)、麹室、酒母室、もろみ(タンク)を回ります。それぞれの場所で各工程の担当の人が、今年の槽汲みの造りについて詳しく説明をしてくれます。
毎年順不同で回るんですが、ここでは分かりやすく、まずは原料処理からいきましょう。
ここでは精米された米を洗う「洗米」と、米を柔らかく蒸すために水を吸わせる「浸漬」をします。どんなに仕込み量が多くても10キロずつ手作業でやるそうです。
米に水を吸わせる吸水時間が、米によって秒単位で変わるので、10キロずつくらいじゃないと面倒見れないそうです。日によっては500キロとか処理しないといけない日もあって、50回同じことをやるって言ってました。米洗うだけで、ものすごい手間かかってますよね。
でもここが一番肝心で、ここをおろそかにすると、後のすべての工程に影響を及ぼします。
もし吸水が足らないと、蒸しても中心まで柔らかくならず、中心が柔らかくないと麹菌も中まで入りこめず、麹菌が中まで繁殖しないと米を溶かしきれず発酵不良、という感じで結局美味しいお酒にならないんですね。酒造りの全てがここから始まっています。
ちなみに、杜の蔵では夢一献と山田錦を使っているのですが、夢一献の方が柔らかめの米なので、山田錦よりは吸水時間を少し短めにしているそうです。ですが今年収穫された夢一献は、例年より少し固めとのことで、元々柔らかめで溶けやすい夢一献にとっては丁度良い塩梅で、造りやすかったそうです。
米の出来具合が影響するという意味では、米を育てるところから酒造りが始まっていると言えるかもしれませんね。
次は麹室に行きましょう。
麹室はより雑菌の侵入が許されない酒造りの聖域です。麹室用のサンダルに履き替えて入ります。あまり寒いと麹菌が活動しないので、室温は30度近くあります。最初は暖かくて良いのですが、湿度もあるせいかすぐに暑くなってきます。
麹作りは特に酒質に影響を及ぼす重要な工程ですので、ここでは杜氏自らが説明をしてくれます。
麹菌を米の中心までしっかり破精(はぜ)込ませる、根付かせるために、常に米の温度を計り、適切な品温に調節してあげるというのが、麹室での仕事です。長年の経験と勘所が必要な仕事です。
杜氏の説明の後に、「米の出来が悪い時は他の農家から米を仕入れたりするんですか?」という質問に、「うちは農家さんとそんなお付き合いはしておりません。多少の米の良し悪しは自分達の腕でカバーできます!」という力強い返答をされる、マッチョで優しく頼りがいのあるステキな杜氏です(人゚∀゚*)
次は酒母室です。
ここは先ほどとは打って変わって冷んやりしたこじんまりしたスペースです。ここにドラム缶くらいのサイズのタンクが3つほど置いてあります。
ここでは酒母と呼ばれるもろみのベースとなるものを作ります。
酒母って何なのかざっくりと説明しますね。水と蒸した米と麹米を入れ、さらに酵母と乳酸を入れます。乳酸は雑菌の繁殖を防ぎます。蒸し米と麹米は酵母の養分になります。
この状態で酵母を培養して、元気な酵母をたくさん育てます。たくさん育って活発に発酵が進めば酒母の出来上がりです。
これに少しずつ、3回に分けて蒸米、麹米、水を加えて量を増やしていきます。一気に入れると乳酸が薄まって雑菌が繁殖したり、酵母がびっくりして発酵をやめてしまったりするからです。これが皆さんもどこかで聞き覚えのある「三段仕込み」というやつです。
こうして無事に量を増やせたものを「もろみ」と呼び、これをタンクで発酵させていくんですね。もろみの話はこの後で少ししますね。
で、そんな酒母なんですが、例年12月初旬〜中旬頃からの仕込みになるそうです。仕込み自体は11月辺りから始まりますので、米を蒸して、麹米も作って、それから酒母の仕込みになります。今年はどのタンクも順調に発酵して良かったとのことでした。
今年初めて使う「ふくおか夢酵母」という酵母の生育が心配だったみたいですが、良い発酵をしていたそうです。ふくおか夢酵母は、リンゴ酸を多く発生させる酵母で、キレの良い酸味を出す酵母です。夏酒などによく使われる酵母です。
初めての酵母のせいか、酒母担当の方はふくおか夢酵母仕込みのタンクがお気に入りとのことでした。柑橘系の酸味と渋味が味わえるとのことです。美味しそうですね。これを書いてる今は、もちろん利き酒した後ですので「美味しかった」ですけどね(^^;;
というわけで次はもろみ担当の方のお話です。
今年は12月の平均気温が例年より3度近くも低く6度くらいだったそうです。基本的に酒造りの時は寒い方が良いのですが、さすがに寒すぎて発酵が思うように進まず、品温を上げるのに苦労したそうです。
九州という場所柄、品温を下げるのには慣れているのですが、上げるとなるとあまりやったことがなく、断熱シートをタンクに巻いたりとか色々と苦労されたそうです。
通常ですと25日ほどで発酵を終え、上槽(じょうそう=もろみを搾る)して清酒になります。
…とまぁだいたいこんな感じで造り手の人達のお話を毎年伺っております。蔵の人達も毎年色々と工夫して説明して下さるので、毎回何かしらの発見とか学びがあったりします。
かけ足でだーっと見てきましたが、なんとなく感じは掴んで頂けたかなと思います。でももっと詳しく説明した方がいいなーと思いながら書いている部分もありました。別の機会で改めて書きたいなと思っています。ちょっと勉強し直して、その結果をここでお伝えできればと思います。